小川博史 記事録

小川博史 現代と古代が交錯する人像   小川 潔

  • 『中部画壇のマチエール』 1999年2月13日
  • (風媒社発行)

黒い海 130F 1998年 第30回日展


 日展参与で光風会理事、小川博史の作品展が松坂屋本店美術画廊で開かれている。

 作家は一九一三年、名古屋に出生。一九三六年、文展初入選以来、日展、光風会展を主な発表の場として活躍。ギリシャ、トルコ、エーゲ海などを訪れ、幾多の秀作を発表し、中日文化賞、愛知県知事教育委員会文化功労者表彰などを受けた現代洋画壇の重鎮である。洋画グループ「南風会」を主宰し、後進の指導にあたる傍ら、独自のモチーフで画境探究に励んでいる。

 約一〇年ぶりの大規模な個展で辻永記念賞の大作《北風》や文部大臣賞を受けた《テトアンの女》などの代表作一五点と新作二〇点が展示されている。

 人物像の《シュケイ》《スニオン》など日展出品作や愛知県美術館ギャラリーで始まった日展での《リンドス》にしてもギリシャやエーゲ海を主題に、現実の眼前にある人物像を通して二千年も三千年も前の神話の時代に生きる人々を重ね合わせ、イメージなど結晶させ、ヴィジョンを抽出しようと努めているようだ。

 今回の個展に際し、キクラデス諸島の一つ、サントリーニに取材した新作を数点出しているが、現実と歴史の交錯のなかでのイメージが結実、優れた造形表現を生み出した。

 「個人の生の実証として真摯な気持ちで取り組んできた。ひたすら前向きの姿勢で人間が生きている喜びや感動を表現していきたい」と八三歳の年齢を感じさせないほど意気軒高。

 初期の《浜》や《階段のある室内》《ブッサベの辺り》、モロッコ女性を描いた《サイーダ》など緊密で造形性豊かな力作が展覧されている。(一九九七・一一)

古代の香気高くギリシャに精魂

 “ギリシャを描く”と題し、愛着と精魂こめた重厚なマチエールの力作二〇数点が松坂屋本店美術画廊の個展に出品されている。

 「古代の余韻を残したギリシャ、エーゲ海の島々にたまらない魅力を覚える」という。

 とりわけ、紀元前一六〇〇年ごろ、火山爆発で島の大半が崩壊したサントリーニに感慨ひとしお。

 彫像的な女性像《風(アクロチリ)》《白い雲》《黒い雲》をはじめ、哀愁のにじむ素朴なサントリーニを描いた《イアの坂道》《街はずれの教会》《フィラの鐘楼》など深く熱い思いがこめられて、共感を呼ぶ。

 また会場には小川さんの制作による完成近い名古屋市総合体育館の陶壁画原画も展示されている。

南風展——写実に基づいた誠実な作品

 日展参与で光風会理事の小川博史を中心に写実に基づいた穏健誠実な力作一〇六点が、愛知県美術館ギャラリーに展示されている。

 光風会の評議員、会員をはじめ、日展出品者も多く、東海地方で一大勢力を誇る美術団体展。

 会のリーダー、小川博史は《Greek》を出品。長年モチーフにしているギリシャを題材に彫像を取り囲むように島や風景などが重厚な筆致で描かれ、風韻漂う力作。
(以下割愛)


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